別離(わかれ) 20020320-22

トウヴィルは変動していた。
大地が揺れる。割れる。隆起し、陥没する。
大きな力がその場を彷徨っていた。

「アーク!!!」
少女の叫び声がした。
只一つ、塔のように隆起する断崖の上。
「ククル!!!」
少女の声に応えるかのように、少年の叫び声がする。
隆起する断崖の真下に見える大地の上。
ククルと呼ばれた少女と、アークと呼ばれた少年と、断崖に引き裂かれた二人は懸命に手を伸ばしていた。
互いの手を掴む為に。目の前の別離を振り払うように。
大地の分断は決定的だった。
ククルが座る断崖は孤立するかのように隆起する。
「アークーーーーーーーー!!!!」
「ククルーーーーーーーー!!!!」
互いの名を叫ぶ声は、変動の音に掻き消された。

隆起する断崖の壁から岩がアークの頭上に崩れ落ちて来る。
寸での所で、彼は橙色の髪をした青年に引っ張られた。
勢い余って、青年と共に尻餅をつく。
一瞬呆けたように落ちてきた岩を見た後、アークは視線を断崖の上に戻した。
ククルは心配そうに下を覗き込んでいた。見える顔は、手を伸ばした時よりも遠い。
アークは立ち上がって、またククルの名を叫ぶ。
大地の激変の中、その姿はあまりにも無防備だった。
「アークッ!お前、危ないだろ!!また岩が落ちてきて、それで死んじまったらどうすんだよっ」
先ほどの青年がアークを羽交い絞めにする。
アークは抵抗するが、青年の方が上背がある上・力もあるので青年から離れる事は出来なかった。
「離せっ!離せよ、トッシュ!!」
アークが抵抗を試みている内に、青年・トッシュはククルに合図を送った。
首を横に振って、早く行け、と。
唇を噛んだ悔しそうな顔で。
トッシュの合図を見て、ククルは茂みの中に隠れる。
トッシュは、泣きそうだった彼女の顔をしっかりと見た。
悪い。
そう心の中で呟いた。

抵抗が無駄だと言う事を判断したアークが再度上の断崖を見た時、ククルの姿は既になかった。
トッシュは、アークの身体から力が抜けたのに気付いた。
自分の立つ大地が危険な状態にある事も。
「アーク、おい、アーク!歩け!ここから離れるぞ!!」
無反応だった。
舌打ちをして、トッシュはアークを引き摺って行った。


トウヴィルは孤立した。
ククルだけがそこにいた。


トッシュに引き摺られて、アークは他の仲間の所へ戻った。
仲間達はトッシュの憮然とした顔と、アークの魂が抜けたような顔を見て視線を落として溜息をついた。
気分の悪い沈黙が周囲を包む。
眩しい夕陽が全員を照らしていた。

アークは、座り込んで夕陽を見つめていた。
夕陽の下に見える、孤立したトウヴィルを見つめていた。
冷たい風が吹く。
イーガの隣で、ポコが身震いした。
チョンガラも身震いをして、両腕を擦る。
「アーク。我々は先にシルバーノアに入って、旅立ちの準備をしておく。風邪を引かぬ内に…帰って来い」
イーガが低い声で言った。
ポコとチョンガラを連れてその場を立ち去る。
ゴーゲンもふわふわと浮いてついて行った。

座り込んで黙っているアークの背中を見ながら、トッシュは頬を掻いた。
重い雰囲気が苦痛になってきた。
けれど、雰囲気を変える為には何を言えば良いのか解らなかった。
このまま沈黙が続いて、一生動けないのではないかと案じた。

長い間があった。
トッシュはアークの横に腰掛けて、アークの頭を軽く叩く。
それに驚いてか、アークがトッシュの方を向いた。
トッシュもアークの方を向いて、唇の片端を少し上げる。

「お前も、そんな顔するんだな」
互いにトウヴィルの方を向いた後、トッシュが口を開いた。
「え?」
「いっつも大人びた難しそーな顔してるけどよ。何つーの?今は、ああこいつガキなんだなって顔してる」
「俺、子供だよ。物凄く…子供だ」
「捻くれんなよ。お前、いつもは平気な顔して色々すげー事してて、まさに『精霊に選ばれた勇者』って感じなんだよな」
「平気な顔なんかしてないよ。いつも緊張してる。俺が何か変な事しちゃったら、世界がどうなるか解らないんだから。でも…」
「でも?」
「…それでも平気な顔に見えたんなら、ククルのお蔭だよ。ククルがいたから安心できた。
ククルは…いつも俺の緊張を包んでくれたから…母さんみたいに」
アークは、はにかむように微笑んだ。
今までトッシュが一度も見た事のない、幸せそうな笑顔。
多分、これがこの少年の素顔なのだろうと感じた。
しかしその笑顔はすぐに曇った。
アークは身を縮めて、抱えていた腕に力を込める。
「…ククルと、ずっと一緒にいられると思ってたのに…」
絞り出すように言った。
瞳は、心なしか潤んでいた。
トッシュは、何と言えば良いだろうかと瞬時に考えを巡らせる。
「あー…アーク。つまり、何だ、その…」
声をかけたはいいものの、続く言葉が見つからない。
アークは不思議そうにトッシュを見つめた。
「…アレだ。ククルはトウヴィルに閉じこもっちまったけどよ、一生会えねーって訳でもないだろ。
何とかすりゃシルバーノアで来られるんじゃねえか?だからよ、クヨクヨすんな。お前が暗い顔してると俺らみーんな暗くなっちまうからよ。
…会いに来られるって。否。会いに来ようぜ、絶対よ」
悩んだ言葉も、一つ口から出ると素直に続いた。
「トウヴィルに行けるようになるまでは俺らをククルと思っとけ。ま、男ばっかでむせーけどな」
呵呵と笑ってアークを見る。
アークは不思議そうな顔を、優しい微笑みに変えた。
トッシュも釣られてにかっと笑みを作る。
「…有難う、トッシュ」

アークはそう言うと立ち上がった。トッシュもそれに倣う。
沈みかけている夕陽が二人の顔を照らした。
アークが、眩しそうに目を細める。
アークの横顔を横目で覗いたトッシュは、アークが普段の彼に戻った事を感じ取った。眼差しが違った。
大きなエンジン音がした。
強い風も起こる。
シルバーノアが、崖の下からその銀色の巨大な体躯を現した。
窓から仲間たちの顔が見える。
シルバーノアはホバリングしながら船体を崖に寄せた。
ハッチが開き、足場が出る。
奥からポコが顔を見せた。
「そうそう悲しんでもいられないね。やらなければならない事だって沢山ある。
…絶対、ククルに会いに行く。それまで、もう悲しまない」
アークが呟いた。
トッシュはそれに頷く。
「行こうか、トッシュ」
先ほどまでの様子が嘘だったかのように、力強くアークは言った。
トッシュの背中を叩いて、シルバーノアに入るよう促す。
ポコに迎えられて、トッシュはシルバーノアに入っていく。
ゆっくりとシルバーノアに歩いていったアークは、途中で振り向いた。
閉じたトウヴィルを視界に入れる。
見つめて、微かに囁いた。
「待っててくれ、ククル」
囁いた途端に強い風が吹く。
言葉が風に乗って届けば良いのにと思いながら、アークはシルバーノアに歩いていった。
仲間達が入り口で出迎える。

「さあ、行こうか」
そう言って、アークはシルバーノアに足を踏み入れた。

アークとククルがトウヴィルで再会するのは、一年後の事になる。




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アークとククルの話を一度で良いから書きたくて、丁度良く書けて嬉しかったです。
キャラクタを知らないと読んでも意味が解らない、という不親切な感じでちょっと申し訳ないです。
自己満足の極み。

アーク1のラストでアークとククルが別れるシーンがとても印象的で、切なく感じたのを覚えています。
アーク2で再会出来た時はとても嬉しかった。イチャついていてもっと嬉しかった(笑)
アークとククル。
きっと二人で一人なんだろうなあ、とか、1ではアークがククルに凄く依存していて2ではその逆で…とか、空想は止まりません。
この二人がとっても好き。
是非幸せに過ごして貰いたい人達です。その点でアニメは最高でした。

とついつい語ってしまう位の愛情を感じて頂ければ幸いです。








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